コロナ禍で急速に進んだリモートワークやハイブリッド勤務。
近年、再び出社に回帰する動きも出てきていますが、入社初日も含めフルリモート勤務の形態を採っている企業も少なくありません。
しかしながら、リモートワークやハイブリッド勤務において、「入社初日の体験設計」は、より難しく、そして重要になっています。
オフィスでの出迎えや、隣の席の先輩との雑談、ランチでの歓迎。
そんな自然な交流がなくなったことで、新入社員が「組織の一員になる実感」を得にくくなりました。
一方で、入社初日の印象は、長期的なエンゲージメントや定着率に直結します。
初日に「この会社で頑張れそう」と感じるか、「なんだか孤独だ」と感じるかで、半年後の姿は大きく変わるのです。
この記事では、リモート環境でも新入社員が安心してスタートできるよう、「オンボーディング体験をデザインする視点と実践ポイント」を紹介します。
リモートオンボーディングの課題と現状

従来のオンボーディングは、「出社すれば自然に始まる」ものでした。
オフィスの雰囲気、同僚の声、紙の資料。
すべてが新入社員にとって“会社の空気”を伝えていました。
しかし、リモート環境ではその空気がありません。画面越しの情報だけでは、会社の文化やチームの距離感がつかみにくいのです。
現場でよく見られる課題には、次のようなものがあります。
・PCやアカウント設定が間に合わず、初日から業務が止まる
・チームメンバーの顔と名前が一致しない
・「誰に質問すればいいか」がわからず孤立
・オンライン説明会が一方通行で、理解もモチベーションも低下
つまり、リモート環境では「情報が届かない」「感情が共有されない」「文化が伝わらない」という“三重の壁”が生まれやすいのです。
これからのオンボーディングは、“業務を覚える”よりも先に、“心理的安全を築く”設計が求められています。
【4つの視点】リモート新入社員の不安を解消する体験デザイン

初日は「情報」「感情」「文化」「つながり」を意識的に設計することが鍵になります。
視点① 情報の明確化
初日の不安の多くは、「何をすればいいのかわからない」ことから生まれます。
事前にスケジュール・担当者・接続情報を共有し、「この順番で進めれば大丈夫」と安心できるガイドを用意しましょう。
動画での説明やチェックリスト形式も効果的です。
視点② 感情のケア
入社初日は緊張の連続です。
オンラインでも「歓迎されている」と実感できる瞬間をつくることが大切。
たとえば、チームメンバーからの歓迎メッセージをSlackなどの社内チャットツールに投稿したり、上司が短いウェルカムビデオを送るだけでも、心理的な距離がぐっと縮まります。
視点③ 文化の体感
社是や理念を読むだけでは文化は伝わりません。
創業ストーリーを語る時間を設けたり、「うちのチームらしさ」を語る雑談を入れることで、言葉以上の温度を感じてもらえます。
視点④ つながりの形成
初日に「誰とつながればいいか」が明確であれば、孤立は防げます。
バーチャルランチ、自己紹介タイム、1on1メンター制度など、双方向のコミュニケーションを最初からデザインしましょう。
オンボーディングとは、仕事を教える時間ではなく、「人と文化の関係を築く時間」だと言えます。
明日から実践できる!リモートオンボーディングの具体的な取り組み事例

ここでは、実際にリモート環境でも効果的なオンボーディングの取り組み例を紹介します。
事前準備を“体験”にする
入社1週間前に、ノートPCやアカウント情報と一緒に「ウェルカムキット」を送付します。
ポイントとしては、業務上に必要なものだけを中に入れるのではなく、会社紹介の冊子やメンバーからのメッセージカードも入れておきます。
「自分が歓迎されている」と実感できるこの体験が、初日の不安をやわらげます。
また、PCセットアップは紙の説明書だけではなく、動画マニュアルなども用意することで、「IT担当者に何度も問い合わせなくて済む」安心感を提供します。
初日のスケジュールを“安心設計”にする
▼スケジュール例
午前:オリエンテーション+自己紹介セッション
↓
昼 :オンラインランチ(カメラOFFでも可)
↓
午後:メンターとの面談+チャットツール紹介
ポイントは、基本的には「詰め込みすぎない」ことです。
初日は情報量よりも“雰囲気の理解”を優先します。
チーム紹介や雑談タイムを意図的に入れると、緊張がほぐれやすくなります。
初週〜初月のフォローアップを仕組み化する
初日だけ完璧でも、その後のフォローがなければ意味がありません。
例えば、新入社員1名ごとに、マンツーマンで様々な面倒を見る教育担当をつける「バディ制度」を導入し、先輩社員が日常的にチャットで相談を受ける仕組みを設ける。
また、30日・60日・90日のタイミングで自動的に面談が実施されるようにすると、関係構築が継続的に進みます。
オンボーディング体験を定期的にアンケートで可視化し、改善サイクルを回すことも有効な方法です。
オンボーディングを一過性のイベントではなく、「企業文化や業務を伝える継続的なプロセス」と捉えることが重要です。
人事だけでなく現場を巻き込み、体験をデザインする発想が欠かせません。
人事・マネージャーが意識すべきポイント

リモート環境でのオンボーディングを成功させるには、「誰が迎えるか」よりも、「どう迎えるか」をチーム全体で考えることが大切です。
人事が仕組みを整えるだけでは不十分。実際に受け入れるマネージャーや先輩社員の関わり方こそが、体験の質を左右します。
初日こそ、会社全体の姿勢が最も強い形で伝わるタイミングです。
また、オンボーディングの成果を「定性的な満足度」だけでなく、定着率・早期離職率・パフォーマンス(成果)を発揮するまでの時間といったKPIで測定する企業も増えています。
数値で振り返ることで、属人的な対応から「再現性のある設計」へと進化させることができます。
まとめ:リモートでも「人が人を迎える」本質を忘れない

リモート時代のオンボーディングに必要なのは、テクノロジーでもマニュアルでもありません。
大切なのは、「あなたを歓迎しています」というメッセージをどう伝えるか。
つまり、“人の温度”を設計することです。
入社初日は、誰にとっても不安で特別な一日。
その一日をどう過ごすかが、これからのキャリア体験を大きく左右します。
リモート環境でも、心の距離を近づける工夫は必ずできます。
オンボーディングとは、会社と社員が「ともに歩き始める日」。
その第一歩を、丁寧にデザインすることから、良い組織文化が育まれていくのです。
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