採用活動において、最も重要な役割を担うのが「面接官」です。
採用の成否は、候補者をどう評価し、どう見極めるかにかかっていると言っても過言ではありません。
しかし現場では、「面接官によって評価がバラバラ」「何に注目すべきか分からない」「印象の良し悪しだけで合否を決めてしまう」といった課題もよく聞かれます。
このような評価のブレは、採用ミスマッチや早期離職、さらには採用コストの増大につながります。
そこで本記事では、評価基準を統一し、再現性のある採用を実現するための「面接官トレーニング」と「実践フレーム」について解説します。
面接官によくある課題とリスク

まずは、面接の精度を下げてしまう、よく見受けられる面接官の課題をみてみましょう。
バイアスによる評価の偏り
人間は誰しも無意識のうちにバイアス(偏見)を抱いています。
「若いから適応力があるだろう」
「大企業出身なら仕事ができるはずだ」
など、そうした思い込みは評価の歪みにつながり、候補者の本質を見誤る一因になります。
面接の現場で特に注意したいバイアスには、以下のようなものがあります。
・ハロー効果
際立った良い点(例:有名大学出身、華々しい実績)や悪い点(例:身だしなれの乱れ)に引きずられ、全体的な評価が歪められる現象です。一部の情報が"後光(ハロー)"のように見え、他の要素も実際以上に良く(あるいは悪く)見えてしまいます。
・類似性効果
面接官自身と似た属性や経験(例:出身地、趣味、経歴)を持つ候補者に対し、無意識に好感を持ち、高く評価してしまう現象です。
・コントラスト効果
直前に面接した候補者の質が極端に高い(または低い)場合、その後の候補者の評価が相対的に低く(または高く)なる現象です。
こうしたバイアスを完全に排除するのは困難ですが、「評価シートの項目ごとに独立して評価する」「面接官同士でバイアスについて認識を共有する」などの対策を通じて、その影響を最小限に抑えることが重要です。
評価基準の不統一
面接官それぞれが独自の判断基準を持っていると、たとえ同じ候補者でも合否が割れるケースが発生します。
もちろん、その会社の採用方針にもよりますが、基本的には「誰が面接しても、同じ結果になる」ことが理想です。
忙しさによる準備不足
当たり前ではありますが、面接は「なんとなく」行うものではありません。
準備を怠ると場当たり的な質問になり、表面上の印象で判断してしまいがちです。
統一基準づくりの第一歩:「求める人物像」を明確にする

面接官の評価を統一するためには、まず企業として「どんな人材を求めているのか」を明確にすることが重要です。
その際は、以下の3つの要素で求める人物像を整理すると効果的です。
① スキル(Can)
業務遂行に必要な能力。具体的には、専門知識や技術、資格など。
② 経験(Have)
過去にどんな業務を担当してきたか。求められる役割に近い実績があるか。
③ 価値観・行動特性(Will/Must)
企業のカルチャーやチームとの相性。「自己成長を重視する」「他者への貢献意識が強い」など。
あくまで一例ではありますが、たとえば、成長期のスタートアップに必要な人物像は「変化に対して柔軟に行動できるリーダータイプ」、成熟企業であれば「安定志向でチームを支えられるマネージャータイプ」といった具合に違いが出ます。
面接評価シートの使い方と設計のポイント

求める人物像が定まったら、それを評価するための「面接評価シート」を設計します。
評価シートには、以下のような項目を設けると良いでしょう。
▼基本構成例
・スキル/経験:業務遂行力を評価(1〜5)
・行動特性/価値観:チーム適性や企業文化との相性(1〜5)
・ポテンシャル:将来性と成長余地(1〜5)
各項目には評価点に加えて、具体的なエピソードや根拠をコメント欄に記載することを推奨します。
「なんとなく良かった」「話し方がしっかりしていた」ではなく、「〇〇の場面で具体的に△△の行動を取っていた」という事実ベースの形で記録することで、後のすり合わせや報告にも活用できます。
評価基準の「ルーブリック化」のすすめ
評価のブレを防ぐ上で効果的なのは、単に「5点」とつけるだけでなく、その5点が具体的にどのような行動・レベルを指すのかを明確に言語化することです。
これを「ルーブリック評価」と呼びます。
例えば、「主体性」の項目で、
5点(非常に優れている): 誰からの指示もなく、自ら課題を設定し、複数の関係者を巻き込みながら解決策を実行し、期待を上回る成果を出せる。
3点(期待されるレベル): 上司やチームからの指示に対しては、自律的に行動し、計画通りに業務を遂行できる。
1点(要改善): 指示された内容であっても、実行に移すために詳細なフォローや進捗管理が必要になる。
このように評価レベルを事前に定義することで、面接官の「感覚」ではなく、候補者の「具体的な行動事実」に基づいた評価が可能になり、評価のすり合わせ(キャリブレーション)も格段に行いやすくなります。
ルーブリックがあることで、新人面接官でも『何をもって高評価とするか』を共通認識として持てるようになり、属人的な評価ではなく、“評価会議の質”も向上します。
実践フレーム:STAR法+コンピテンシー評価

評価の再現性を高めるために有効なのが「STAR法」と「コンピテンシー評価」を組み合わせた実践フレームです。
STAR法とは?
候補者の過去の行動を正確に把握するための質問法です。
S(Situation):どんな状況だったか
T(Task):何が求められていたか
A(Action):どう行動したか
R(Result):結果はどうだったか
例:
「前職で業務改善に関わった経験はありますか?その時の状況(S)、課題(T)、あなたがとった行動(A)、その結果(R)を教えてください」
コンピテンシー評価
コンピテンシーとは「成果をあげるための行動特性」のことです。
特に以下の観点が重要です。
主体性: 自ら課題を発見し行動したか。
協調性: 周囲と連携し、コミュニケーションを取りながら成果につなげたか。
論理的思考: 課題解決に向けて筋道立てて思考し、実行に移せたか。
粘り強さ: 困難に直面したとき、どのように乗り越えようとしたか。
「STAR法」で実際のエピソードを引き出しつつ、「コンピテンシー」で候補者の行動特性を確認する。
この組み合わせは、「見た目や話し方」などの印象ではなく、実際の仕事力を評価するための有効な方法の一つです。
面接官トレーニング実施時のポイント

これまで評価基準を統一するためのポイントを見てきましたが、実際に面接官トレーニングを実施する際には、以下のようなアクションを行うとより効果的です。
ロールプレイ形式の研修
実際の面接を模してロールプレイを行うことで、質問の仕方や評価の観点に対する理解が深まります。
過去の採用データを振り返る
優秀な社員(ハイパフォーマー)の入社時の面接録や評価シートを振り返り、「どういう要素が評価され、結果として高い成果につながったのか」を整理することで、評価基準の実効性と明確化につながります。
評価のすり合わせ(キャリブレーション)
複数の面接官が同じ候補者に対して評価を行い、結果を照らし合わせることで評価視点の差異を把握し調整することができます。
こうした「校正」のプロセスは、評価の統一に不可欠です。
トレーニング後のフィードバックとフォローアップ
トレーニングは一度やれば終わり、ではありません。
面接官一人ひとりの面接後の記録(評価シート)を定期的にチェックし、評価の傾向やバラつきを分析します。
その上で、個々の面接官に対し、「あなたが注目すべきコンピテンシーはここです」「この質問はより深掘りが必要です」といった個別フィードバックを行うことが、トレーニング効果を定着させます。
また、面接官は、候補者にとって企業イメージを決める「企業の顔」です。
評価基準の統一に加え、「ブランド・エクスペリエンス(候補者の体験価値)の向上」の観点からも、面接での話し方や態度の統一を図ることも、結果的に優秀な人材の採用決定率を高める重要な要素となります。
まとめ:採用力を高める「評価の再現性」

評価基準の統一は、採用活動における再現性を高め、組織の成長につながります。
面接官は誰でも簡単に務まるように見えて、実は高度なスキルが求められる役割です。
「人が人を評価する」以上、完全な客観性を求めるのは難しいかもしれませんが、フレームやツールを活用することで、より公正で精度の高い採用判断が可能になります。
ぜひこの記事を参考に、面接官トレーニングの導入や評価基準の統一を進め、採用力の向上につなげていただければ幸いです。
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