給与も、ポジションも、働き方も。
決して見劣りする条件ではないはずなのに、オファーを出した途端に辞退の連絡が入る。
人事として、そんな経験をしたことがある方は少なくないと思います。
「他社に決めました」という短いメールを読みながら、どこで判断が分かれたのか、何が足りなかったのかが分からない。溜息をつきつつ、次の採用案件に向き合う。
特に優秀な候補者ほど、複数の内定を手にしているものです。
最後は年収の数十万円の差ではなく、もっと「言語化しにくい何か」で決断されているのではないか…。
そんな風に感じたことはありませんか?
実は、オファー承諾率が伸びない理由は、条件そのものではなく、オファー前後の「体験」にあることが多いのです。
オファーはゴールではなく、候補者にとっては自分の人生を預ける場所を決めるための最終フェーズ。
とはいえ、採用予算や会社の制度をすぐに変えるのは難しいもの。
そこで今回は、大きな改革をしなくても、明日から個人で実践できる「小さな6つの工夫」に焦点を当てて考えてみます。
オファー承諾は「最後の選考」だという視点

企業側にとってオファー提示は「選考プロセスの終了」ですが、候補者にとっては、むしろここからが本番です。
・複数社から届いたオファーを並べて比較する
・家族やパートナーに相談し、生活の変化をシミュレーションする
・「本当にこの会社で通用するだろうか」と、深夜に一人で自問自答する
このタイミングで人事が担うべき役割は、説得することでも、強引にクロージングすることでもありません。
候補者が納得して決断できるよう、判断材料を丁寧に整理する「決断の伴走者」になることです。
この前提を持つだけで、オファー面談の空気感や、候補者への言葉選びは劇的に変わります。
工夫① オファー前に「迷いそうな点」を想像しておく

候補者がオファーを迷う理由は、だいたい決まっています。
・実際の具体的な業務内容がイメージしきれない
・評価や昇給の仕組みが分かりづらい
・配属後の人間関係が不安、チームの雰囲気が掴みきれていない
・前職との違いが見えない、前職とは別のリスクがあるのではないか
これらは、選考中の何気ない一言や表情に表れています。
「その点、もう少し詳しく聞いてもいいですか?」
そんな質問が出た箇所こそ、迷いの種です。
▼人事の一言・会話例
「選考中に、評価制度の運用実態について質問されていましたよね。 実際に、中途入社1年目の方がどう評価されたかの事例を今日はお持ちしました。不安な部分は今のうちに解消しておきましょう」
「何か質問ありますか?」と投げるより、先回りして不安に触れるだけで、候補者の安心感は格段に高まります。
工夫② 条件説明の前に「なぜあなたなのか」を伝える

オファー面談というと、つい年収、等級、福利厚生の説明から入ってしまいがちです。
でも候補者が本当に知りたいのは、「自分はこの会社に必要とされているのか」という点であったりします。
特に転職活動は精神的なエネルギーを消耗します。
内定をもらった瞬間は嬉しくても、その後すぐに「期待に応えられるだろうか」というプレッシャーが襲ってくるものです。
▼人事の一言・会話例
「条件の詳細に入る前に、まずお伝えさせてください。 現場のマネージャーも私も、なぜ今回〇〇さんにぜひ来てほしいと思ったのか。選考を通じて確信した『〇〇さんの強み』について、改めてフィードバックさせてください」
具体的には、
・どのエピソードが評価の決め手になったのか
・入社後、具体的にどのプロジェクトでその力を発揮してほしいのか
・その方が加わることで、チームにどんな化学反応を期待しているのか
これらを、面接官の生の言葉として伝えます。
この一言があるだけで、オファーはただの「紙の条件」から、「期待と歓迎のメッセージ」へと変わります。
工夫③:現場マネージャーからの「プラスアルファ」を届ける

人事がどれだけ熱く語っても、候補者にとって「入社後に一緒に働く人」の言葉に勝るものはありません。
人事ができる小さな、しかし強力な工夫は、現場を巻き込むことです。
▼実践のアイデア
・面接官(上司候補)からの、具体的な評価ポイントを記した「メッセージレター」を添える
・オファー面談の冒頭5分だけ、現場マネージャーにオンラインで参加してもらい「改めて一緒に働きたい」と伝えてもらう
「人事が頑張って採用しようとしている」という構図から、「現場があなたを待っている」という構図へ。
この小さなブリッジを作るだけで、候補者の「自分ごと化」は一気に加速します。
工夫④ オファー内容を「条件」ではなく「物語」で語る

年収〇万円、等級〇、昇給年〇回。
数字は分かりやすい一方で、候補者によっては未来が想像しづらいものです。
候補者は条件を見て「比較」はできますが、「この選択で後悔しないか」という問いには、数字では答えが出ません。
その問いにヒントを与えるのが、“物語”です。
物語で語ることは、候補者を高揚させるためではありません。
「この会社を選んだ後の自分」を具体的に想像できる状態をつくり、意思決定の不安を一つずつ減らしていくためです。
▼人事の一言・会話例
「あくまで一例ですが、〇〇さんのこれまでのご経験を鑑みると、 入社1年目はこの領域で成果を出していただき、 2年目以降は、今回新設されるこのチームのリードを担っていただく姿を想定しています。その場合のキャリアパスは……」
キャリアパスを断定する必要はありません。
むしろ「こうなるべき」と言い切らない方が信頼されやすいです。
「この条件で入社した先には、こんな景色が広がっている可能性がある」という選択肢の解像度を上げてあげること。
それが、承諾という重い扉を押し開く一つの力になります。
工夫⑤:「不都合な真実」を伝える誠実さを持つ

オファーを承諾してもらうために、会社の良い面ばかりを強調したくなるのが人情です。
しかし、情報の非対称性(会社側だけが内情を知っている状態)を感じると、候補者は本能的に警戒します。
あえて「今のうちの課題」を伝えることは、逆説的に強い信頼関係を築きます。
▼人事の一言・会話例
「正直に申し上げますと、今の私たちのチームは〇〇の仕組みがまだ整っておらず、入社直後はその整理に苦労されるかもしれません。だからこそ、〇〇さんのような経験をお持ちの方に、そこを一緒に作り上げてほしいと考えています」
マイナス面を隠さず、かつそれを「あなたが活躍すべき理由」に変換して伝える。
この誠実さは、入社後のリアリティ・ショック(入社前のイメージと現実のギャップ)を防ぐことにも繋がります。
工夫⑥ 即決を求めず「考える時間」を設計する

オファーを出した後、「いつまでにお返事いただけますか?」と期限を確認するのは業務上必要です。
ただし、伝え方には注意が必要です。
▼人事の一言・会話例
「これは人生における非常に大きな決断です。 ご家族や大切な方ともじっくり相談して、納得のいく答えを出してください。 もしその過程で、また現場の人間と話したい、あるいは聞き忘れたことがあると思われたら、いつでも追加で面談の場をセットします」
即決を迫られなかった経験は、そのまま「この会社は人を大切にする」という印象になります。
即決を迫らない余裕と、納得するまで付き合う姿勢。
「無理に追わない姿勢」を見せる企業ほど、候補者からは「人を大切にする会社だ」と選ばれる傾向にあります。
まとめ:承諾率は、人事の「姿勢」が映る鏡

オファー承諾率を上げるために、特別な制度や派手な施策は必要ありません。
候補者の迷いを想像し、 評価の理由を丁寧に言葉にし、 未来の物語を一緒に描き、 決断の時間に寄り添う。
その「小さな工夫」の積み重ねが、「この人たちがいる会社なら、安心して挑戦できそうだ」という確信を生みます。
たとえ、今回これらの工夫を尽くした上で辞退という結果になったとしても、それは失敗ではありません。
真摯に向き合ってくれた人事の印象は、候補者の心に温かく残ります。
数年後、彼らが再びキャリアの岐路に立ったとき、あるいは友人の転職相談に乗ったとき、あなたの会社は真っ先に思い出される候補になるはずです。
オファー承諾は一つの区切りですが、入社後の信頼関係を築くためのスタート地点でもあります。
人事がどんな姿勢でその瞬間に立ち会うかは、きっと候補者の人生の記憶に、長く残り続けるはずです。
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