メンター制度が形骸化する理由と成功企業5つの共通点

採用

近年、人事・採用担当者の間で改めて注目されている制度の一つが「メンター制度」です。

背景には、新卒・中途を問わず早期離職が後を絶たないこと、またリモートワークの普及により、「職場の人間関係の希薄化」や「心理的孤立」がオンボーディングの大きな壁となっていることがあります。

一方で、人事の現場からよく聞こえてくるのは次のような切実な声です。

 「制度としては存在するが、正直あまり機能していない」
「メンターと新人が何を話しているのか、人事が把握できていない」
「現場の負担感だけが増し、不満が出ている」

メンター制度は決して新しい仕組みではありません。

しかし、“あるだけ”の制度になってしまうケースが非常に多いのも事実です。

本記事では、メンター制度が形骸化してしまう理由を整理した上で、実際に機能している企業に共通するポイントを人事・採用担当者の視点で解説します。

そもそも「メンター」と「OJT」は何が違うのか?

形骸化の要因を紐解く前に、まず整理しておきたいのが「OJT」と「メンター制度」の明確な違いです。ここが曖昧な企業ほど、制度は形骸化しやすくなります。

OJT(On-the-Job Training):
主な目的は「実務能力の向上」です。直属の上司や先輩が、業務の進め方やスキルを直接指導します。そこには「評価」が伴い、縦の人間関係がベースとなります。

メンター制度:
主な目的は「精神的な支援」と「キャリア形成」です。仕事そのものよりも、人間関係の悩みやキャリアの不安、職場文化への適応をサポートします。

成功している企業では、メンターをあえて「評価に関わらない、別部署の斜めの関係」に設定することが多いです。

「評価者には言えない本音」を吐き出せる安全地帯を確保すること

これがメンター制度の本質的な価値です。

メンター制度が形骸化する4つの理由

なぜ、良かれと思って導入した制度が形骸化してしまうのでしょうか。それには主に4つの要因があります。

理由① 目的が曖昧なまま導入されている

メンター制度がうまくいかない最大の要因は、「何のための制度なのか」が明確でないまま導入されている点にあります。

「他社がやっているから」「離職が多いからなんとなく」といった曖昧な理由での導入は、失敗の第一歩です。

離職防止なのか、育成支援なのか、心理的安全性の確保なのか。

目的が曖昧なままでは、メンター自身も「どこまで踏み込んでいいのか」「面談で何を達成すべきか」が分からず、結果として形だけの面談に終始してしまいます。

理由② メンター任命=丸投げになっている

「〇〇さん、来月からメンターをお願いします」と任命したきり、その後のフォローを現場任せにするパターンです。 

これは形骸化パターンの典型例です。

人事が制度設計だけを行い、その後のフォローや支援をしないままでは、メンターの負担感だけが増えていきます。

特に多忙な現場ほど、「通常業務+α」の負荷が重くなり、制度は次第に形だけのものになっていきます。

理由③ メンター側にメリット・評価がない

メンター役を担う社員にとって、その経験が評価やキャリアにプラスに反映されない場合、制度は長続きしません。

善意や責任感だけに依存した制度は、担当者のモチベーション低下を招きます

 「教える側が損をする」「忙しい人ほど損をする」という仕組みになっていないかは、人事が必ず確認すべきポイントです。

理由④ 面談が“雑談”で終わってしまう

テーマ設定や振り返りがないまま行われる面談は、雑談や愚痴聞きで終わりがちです。

それ自体が悪いわけでは決してありません。ガス抜きなど、そういったコミュニケーションが重要なケースもあります。

ただ、制度として成果が可視化されない状態では、人事として改善の打ち手を講じることができません。

成功している企業に共通する5つのポイント

制度を形骸化させず、組織の力に変えている企業には、多くの場合共通する運用ルールがあります。

共通点① メンター制度の役割定義が明確

メンター制度がきちんと機能している企業では、メンターの役割を言語化しています。

「メンターは教える人ではなく、聴く人である」「実務の指示は出さない」「ここで話された内容は、緊急時を除き上司には秘匿する」といったグランドルールが徹底されています。

この境界線があるからこそ、メンティーは安心して自己開示ができるのです。

メンターは「評価しない」「指示しない」存在であり、あくまで安心して相談できる第三者的ポジションであることが共有されています。

共通点② 期間とゴールが設定されている

成功企業では、メンター制度に必ず「期間」「ゴール」が設定されています。

「とりあえず1年間」と漫然と続けるのではなく、「入社後3ヶ月で職場に馴染む」「半年後には自ら他部署に相談に行けるようになる」といった到達点(ゴール)を明確にしています。 

終わりが見えることで、メンターもペース配分を考えやすくなり、制度としての鮮度を保つことができます。

共通点③ メンター向けの最低限のガイドがある

傾聴のポイントやNG対応例など、メンターのスキルに依存しすぎないよう、簡易的なメンター向けのガイドが用意されています。

・「最近どう?」ではなく「この1週間で一番心が動いたことは?」と聞く
・アドバイスをする前に、まずは相手の言葉を3分間聴く
・NG対応例(自分の苦労話にすり替える、否定するなど)

重要なのは「完璧な対応」を求めないことです。

完璧なコーチングスキルを求めるのではなく、「最低限これだけ守れば失敗しない」と人事がハードルを下げることが、現場への制度定着を助けます。

共通点④ 人事が「裏メンター(事務局)」として機能している

うまくいっている企業では、人事が完全に新人サポートの役割を手放すことはありません。

定期的なヒアリングやフォローを行い、メンターが一人で抱え込まない仕組みを作っています。

例)
・メンターだけが集まり、悩みやノウハウを共有する「メンター会」の開催
・メンティーへの定期的なアンケートによる、アラートの早期検知
・メンターが一人で抱え込まないための相談窓口の設置

現場に任せきりにせず、人事が「現場のサポーター」として動いているのが特徴です。

共通点⑤ メンター経験がキャリアに活きる設計

メンター経験が人事評価や次世代リーダー育成につながる設計になっている点も共通しています。

成功企業では、メンターを「後輩を助けるボランティア」ではなく、「マネジメントの予行演習」と位置づけています。

他者の話を聴き、内省を促す経験は、将来リーダーやマネジャーになる上で不可欠なスキルです。

この経験が人事評価に加点要素として含まれていたり、昇進の要件になっていたりすることで、メンター側の主体性が引き出されています。

採用・定着の観点で見るメンター制度の本当の価値

昨今の採用市場において、求職者は「教育制度の有無」以上に「心理的安全性が保たれた環境かどうか」を重視しています。

面接や内定者フォローの場で、「当社のメンター制度では、具体的にこんな対話が行われ、新人がこう成長した」というエピソードを語れるかどうかは、企業の誠実さを伝える強力な武器になります。

また、メンター制度はメンティー(新人)を救うためだけのものではありません。

メンター役を担う中堅社員が、組織への帰属意識を再認識し、自身の成長を実感する機会でもあります。

副産物として、部門を超えた「斜めのネットワーク」が構築され、組織全体の風通しが良くなるという効果も期待できるのです。

まとめ|メンター制度は「組織文化を育む心のインフラ」

メンター制度が形骸化する原因の多くは、現場の熱量不足ではなく、事務局である人事が「制度設計と運用の継続性」をどこまで作り込めているかにあります。

形だけで終わらせないためには、まずは小さく始め、現場のフィードバックを受けながら改善を重ねていくことが重要です。

「制度を作って終わり」にするのか、それとも「組織文化を育むインフラ」に昇華させるのか。

その覚悟が人事にあるかどうかで、数年後の離職率と組織の強さは大きく変わるはずです。

まずは自社のメンター制度が「ただの雑談タイム」になっていないか、現場のメンターたちと対話することから始めてみてもいいかもしれません。

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