キャリアに迷ったら「5年後」ではなく「次の1年」を考える

キャリア論

「このまま今の会社で働き続けていいのだろうか」
「将来のキャリアが見えない」
「転職したい気持ちはあるけれど、何を基準に考えればいいか分からない」

キャリアについて悩み始めると、「5年後の自分を考えよう」というアドバイスを目にすることがあります。実際に、転職活動やキャリア面談でも「5年後のキャリアプラン」を聞かれる場面は少なくありません。

もちろん、将来を考えること自体は大切です。しかし、キャリアに迷っている状態で5年後を考えようとすると、かえって考えがまとまらなくなり、答えが出なくなることもあります。

そんなときは、5年後ではなく「次の1年」に目を向けてみることをおすすめします。

この記事では、5年後のキャリアプランで行き詰まってしまう理由と、心理的負担を減らして前に進むための「次の1年」の考え方のポイントを、HRの視点からご紹介します。

なぜ「5年後」を考えると苦しくなるのか

そもそも、なぜ私たちは5年後のキャリアを考えようとすると、息苦しさを感じてしまうのでしょうか。理由は大きく2つあります。

理由① 将来は予測できない(変化の激しい時代背景)

5年という時間は、想像以上に長いものです。

会社の経営方針や組織体制がガラリと変わることもあります。AIなどの新しい技術が普及し、今ある仕事の進め方が大きく変化したり、あるいは仕事そのものが自動化されたりする可能性もあるでしょう。

変化するのは、周囲の環境だけではありません。自分自身の価値観やライフステージも変わります。

20代の頃は「とにかくバリバリ働いて年収を上げたい」重視だった人が、30代を迎えて「ワークライフバランスや家庭との両立を優先したい」と考えるようになるケースは珍しくありません。

このように、5年後の環境や自分の考え方を正確に予測することは、誰にとっても簡単ではないのです。

だからこそ、「5年後の理想像が思い浮かばない」と感じても、焦ったり不安に思ったりする必要はまったくありません。

理由② 正解を探そうとしてしまう

5年後を考えようとすると、「失敗しない選択をしなければ」と考えてしまう人もいます。

「この転職は正しいのだろうか」
「今の会社に残った方がいいのではないか」
「もっと別の仕事を選ぶべきではないか」

このように、まだ見ぬ未来の「正解」を探し始めると、選択肢を比較することばかりに時間を使ってしまい、結果として身動きが取れなくなってしまいます。

キャリアにおける選択は、やってみなければ分からないことの連続です。最初から完璧な正解を求めようとすることが、行動を妨げる原因になってしまうのです。 

キャリアのプロも提唱する「計画された偶発性理論」

ここで、キャリア論における重要な考え方をひとつご紹介します。 スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」です。

この理論では、「個人のキャリアの8割は、予想しない偶発的な出来事によって形成される」とされています。つまり、最初からガチガチに決めたプラン通りにキャリアを歩む人よりも、偶然の出会いや予期せぬ出来事をきっかけにキャリアを切り拓いていく人の方が圧倒的に多い、ということです。

この理論が素晴らしいのは、「偶然をただ待つ」のではなく、「行動を積み重ねることで、良い偶然を引き寄せる(計画する)」という点にあります。

5年後の計画に縛られる必要はありません。大切なのは、目の前のことに興味を持ち、一歩を踏み出し続けること。その柔軟な姿勢こそが、結果としてあなたにとって最適な未来を引き寄せるのです。

キャリアは一本道ではなく、経験の積み重ねでできている

キャリアは、一度の大きな決断だけで決まるものではありません。

実際には、日々の経験や小さな挑戦の積み重ねが、将来の選択肢を広げています。

例えば、

・新しい業務を担当してみる
・社内で別の部署と関わる機会を増やす
・資格取得や勉強を始める
・副業やボランティアに挑戦してみる

こうした経験は、一つひとつは小さく、地味に見えるかもしれません。

しかし、その積み重ねによって「できること」が増え、数年後には転職や昇進など、さまざまな選択肢につながっていきます。

実際、「今の仕事が将来にどう役立つか分からない」と感じていた経験が、後になって評価されることも少なくありません。

そのため、「5年後にどんな仕事をしているか」を決めることよりも、「今の自分にどんな経験を積み重ねるか」を考える方が、現実的で行動につながりやすいのです。

「次の1年」で考えると行動しやすくなる

5年後ではなく、まずは1年後を考えてみましょう。

1年という期間であれば、今の環境を踏まえながら現実的な目標を立てやすくなります。

例えば、以下のような大きさの目標であれば、具体的な行動へと落とし込みやすいはずです。

・今の職種で、一人で完結できる仕事の幅を広げたい
・成果を出して、次の査定で年収を少しでも上げたい
・メンターとして、後輩を指導・育成できるようになりたい
・Excelの関数や生成AIの活用など、日々の業務を効率化するスキルを身につけたい

こうした1年単位の目標であれば、明日から何をすべきかが明確になります。

そして、その行動の積み重ねが、結果として2年後、3年後の予期せぬチャンス(良い偶然)へと繋がっていきます。

【職種別】「次の1年」の目標設定イメージ

「次の1年をどう描けばいいか迷う」という方のために、いくつかの職種を例にした目標イメージを用意しました。参考にしてみてください。

① 営業職・接客職の場合

  • 1年後の目標: 「既存顧客からのリピート率を10%上げる」または「チーム内で最も丁寧なヒアリングができるようになる」
  • 今日からの行動: 先輩の商談に同席させてもらい、質問の仕方をメモする。顧客管理ツール(CRM)の使い方をマスターする。

② 事務・バックオフィス職の場合

  • 1年後の目標: 「月月末の処理にかかる時間を、マニュアル化とツール導入で2日間短縮する」
  • 今日からの行動: 現在の業務フローを書き出して、無駄なステップがないか洗い出す。Excelのマクロや関数を勉強する。

③ 技術職(エンジニア・クリエイターなど)の場合

  • 1年後の目標: 「新しい言語(またはツール)を一つ習得し、小さな案件を一人で担当する」
  • 今日からの行動: 週に3時間、オンライン教材で学習する時間をスケジュールに組み込む。社内の勉強会に参加してみる。

大きなキャリアチェンジを目指さなくても構いません。「今の仕事の解像度を少し上げる」「不満を少し減らす」といった視点で、1年の目標を設定してみましょう。

次の1年を考えるための3つの質問

「そうは言っても、何から考えればいいか分からない」という人は、ノートとペンを用意して、次の3つの質問を自分に投げかけてみましょう。

質問① 今の仕事で「楽しい・苦にならない」と感じることは何か

仕事の中で「この作業をしているときは時間が経つのが早い」「これなら意外と好きかもしれない」と思えることは、自分の適性を知る重要なヒントになります。

「営業が好き」といった大きな括りだけでなく、「提案書を作っているとき」「お客様の愚痴を聞いているとき」「数字のズレをチェックしているとき」など、ピンポイントな行動で構いません。

質問② 今の仕事で「負担・ストレス」に感じていることは何か

反対に、「できれば避けたいこと」を整理することも重要です。

仕事内容そのものだけでなく、通勤時間、職場の人間関係、評価制度、残業時間なども含めて書き出してみましょう。

自分がキャリアにおいて「絶対に譲れない条件(価値観)」が見えてくることがあります。

質問③ 1年後にどんな自分になっていたいか

ここでは、大きな夢を考える必要はありません。

「一人で担当できる仕事を増やしたい」
「新しい資格を取得したい」
「転職活動を始められる状態になりたい」

このように、地に足のついた現実的な目標で十分です。

目標が具体的になれば、今日から始められる小さな一歩が見つかりやすくなります。

まとめ

キャリアに迷うと、どうしても「5年後、10年後の正解を見つけなければ」と焦ってしまいがちです。

しかし、変化の激しいこの時代、将来を正確に予測することは誰にとっても簡単ではありません。

だからこそ、まずは「次の1年」に目を向けてみてください。

1年後に身につけたいスキルや経験を考え、小さな行動を積み重ねていくことが、結果として5年後のキャリアにつながっていきます。

将来の正解を探すことよりも、今の自分ができる一歩を積み重ねること。その積み重ねが、自分らしいキャリアを築く土台になるはずです。

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