「できるだけ自社の魅力を伝えて、応募者に入社したいと思ってもらいたい。」
採用活動を行う企業であれば、このように考えるのは自然なことです。面接は自社の魅力を伝える場でもあるため、働きやすさや福利厚生、成長環境など、良い面を中心に伝える企業は少なくありません。
しかし、良い面ばかりを伝えた結果、入社後に「聞いていた話と違う」と感じられてしまえば、早期離職や採用ミスマッチにつながる可能性があります。
近年では、採用活動において「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」という考え方が注目されています。これは、仕事や職場の魅力だけでなく、大変な部分や課題も含めて伝えることで、応募者との認識のズレを減らそうという採用手法です。
この記事では、面接で自社の悪い部分や課題も伝えるべき理由、採用ミスマッチを防ぐために意識したいポイントについて実務の視点から解説します。
なぜ企業は悪い部分を隠したくなるのか

企業が面接で自社の課題やデメリットを積極的に話さないのには、主に3つの理由があります。
1. 「応募辞退」に対する不安
人手不足が続く中、せっかく面接まで進んだ応募者にはできるだけ内定を承諾してほしいと考えるのは当然の心理です。
2. 競合他社との採用競争
自社の弱みを正直に伝えることで、同じ職種・業界の競合他社に優秀な応募者が流れてしまうのではないかという懸念があります。
3. 「選ばれる場」としての意識
面接は企業が応募者を選考する場であると同時に、企業も応募者から選ばれる場です。そのため、できるだけ良い印象を与えたいという心理が働き、自社の課題には触れないまま面接を終えてしまう傾向があります。
しかし、採用活動の目的は内定承諾を得ることではありません。本当の目的は、入社後に応募者が長く活躍してくれることです。その視点で考えると、良い面だけを伝えることが必ずしも最善とは言えません。
悪い部分を隠すことで起こる3つのリスク

事実と異なる過度にポジティブな印象を与えたまま採用を行うと、採用活動では、以下のようなリスクがあります。
リスク① 入社後のギャップが大きくなる
面接で実際の働き方や職場環境を十分に伝えなければ、応募者は自分なりのイメージを持って入社します。
例えば、繁忙期の残業や業務量、少人数組織ならではの役割の広さなどが伝えられていなければ、入社後に「思っていた環境と違う」と感じる可能性があります。
このような認識のズレは、仕事へのモチベーション低下や満足度を下げる要因になります。
リスク② 早期離職につながる
入社後のギャップが大きいほど、早期離職のリスクは高まります。
採用には、求人掲載費や採用担当者の工数、教育・研修コストなど、多くの時間と費用がかかります。短期間で退職されれば、それらの投資を十分に回収できません。
採用数を増やすことだけではなく、定着して活躍してもらうことまで考える必要があります。
リスク③ 採用ブランド・企業信頼度の低下につながる
現在は口コミサイトやSNSなどを通じて、実際に働いた人の声が広く共有される時代です。
もし「面接で聞いていた話と違った」という声が増えれば、企業への信頼にも影響します。
もちろん、すべての口コミが正しいとは限りません。しかし、応募者はさまざまな情報を参考に企業を比較しています。
誠実な採用活動を積み重ねることは、企業ブランドを守ることにもつながります。
近年注目される「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」とは

リアリスティック・ジョブ・プレビュー(Realistic Job Preview:RJP)とは、仕事や職場の良い面だけでなく、負担や難しさ、課題なども含めて応募者へ伝える採用手法です。
一見すると、自社に不利な情報を伝えるようにも思えます。しかし、応募者が仕事内容や職場環境を正しく理解した上で入社を判断できるため、入社後のギャップを減らしやすいという特徴があります。
また、企業にとっても、自社の環境に合う人材と出会いやすくなるというメリットがあります。
採用活動では「できるだけ多くの人に選ばれること」だけではなく、「自社に合う人に選んでもらうこと」も重要です。RJPは、その考え方を実践するための方法の一つと言えるでしょう。
悪い部分を伝えることで得られるメリット

面接で課題やデメリットを開示することは、企業にとって以下のような実務上のメリットをもたらします。
メリット① 応募者との信頼関係を築きやすい
課題も含めて説明する企業に対して、応募者は「正直に話してくれている」と感じやすくなります。
もちろん、すべての課題を細かく説明する必要はありません。しかし、応募者が入社後に知ることになる内容であれば、面接の段階で共有しておく方が信頼につながります。
メリット② 採用ミスマッチを減らせる
仕事内容や働き方を正しく理解した上で応募・入社を決めてもらうことで、認識のズレが少なくなります。
結果として、「思っていた仕事ではなかった」という理由での早期離職を防ぎやすくなります。
メリット③ 定着率の向上が期待できる
入社前から仕事内容を理解している人は、多少の大変さがあっても「聞いていた内容だった」と受け止めやすくなります。
想定外の出来事が減ることで、安心して仕事に取り組みやすくなるでしょう。
メリット④ 自社に合う人材が集まりやすくなる
すべての応募者に好印象を持ってもらう必要はありません。
例えば、スピード感のある環境を魅力と感じる人もいれば、慎重に仕事を進めたい人もいます。
自社の特徴を正しく伝えることで、その環境に合う人材から応募を集めやすくなります。
悪い部分はどこまで伝えるべきか

自社の課題を伝えるといっても、単に自社を自虐的に否定したり、あらゆる不満を並べ立てたりする必要はありません。
伝えるべきなのは、応募者が入社後に実際に経験する可能性が高い内容です。
具体的には、以下の4つのカテゴリーに関する情報を事実として共有しておくとよいでしょう。
1. 労働環境・業務負荷
「繁忙期(○月〜○月)は業務が集中し、残業が月平均○時間程度に増加する時期がある」
2. 組織体制・社風
「少人数の組織であるため、明確なマニュアルがない業務も多く、自身で手探りで進める場面がある」
3. 教育・フォロー体制
「大手企業のような手厚い一斉研修制度はないため、基本的にはOJTを中心に、自発的に質問しながら業務を覚えていく必要がある」
4. 評価・キャリア
「年功序列の要素はなく、成果や目標達成度がダイレクトに評価や給与に反映される仕組みである」
求職者を不安にさせない!面接での「ネガティブ情報」の伝え方

同じ事実を伝える場合でも、表現方法や文脈の持たせ方によって、応募者の受け取り方は大きく変わります。 単に「悪い部分」を事実のまま突きつけるのではなく、「その課題が発生している背景」や「企業としての今後の対応策」をセットで伝えることがポイントです。
以下に、実務でそのまま活用できる「言い換え例」をまとめました。
| NG表現例 | 求職者が納得・安心しやすい伝え方 |
| 「うちは人間関係が悪いです」 | 「部署ごとに考え方や仕事の進め方が異なるため、調整しながら業務を進める場面があります」 |
| 「教育体制は全く整っていません」 | 「現在マニュアルや研修体制を整備している途中の段階です。そのため入社直後は自発的に動いていただく場面が多いですが、先輩社員がマンツーマンで実務をサポートします」 |
| 「とにかく残業が多いです」 | 「月末や特定の繁忙期には残業が発生しますが、プロジェクトの合間など、それ以外の通常期は定時で退社できる日も多くあります」 |
| 「定着率が悪くて人がすぐ辞めます」 | 「過去には仕事内容や働き方とのミスマッチから早期離職につながったケースもありました。そのため今回は、入社後のギャップを防ぐために実態をお伝えしています」 |
このように、事実を隠さずに説明しつつ、それが職務においてどのような意味を持つのかを論理的に説明すれば、応募者は客観的な情報として状況を把握し、入社の可否を判断しやすくなります。
まとめ

面接では、自社の魅力を伝えることはもちろん重要です。しかし、良い面だけを伝える採用活動では、入社後のギャップが生まれやすくなります。
仕事内容や働き方の実態を正しく伝えることは、応募者との信頼関係を築き、採用ミスマッチや早期離職の防止にもつながります。
また、誠実な採用活動は、企業の採用ブランドを高めることにもつながるでしょう。
採用活動の本当のゴールは、内定を承諾してもらうことではありません。入社した人が安心して働き、長く活躍できる環境をつくることです。
そのためにも、面接では自社の良い面だけでなく、応募者が知っておくべき現実も誠実に伝える姿勢を大切にしましょう。
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